比喩経のなかの愚人(仏教語のいわゆる決定性《けつじょうしょう》)の喩《たと》えばかりを集めた条項からその中の幾千を摘出したものである。但し経本には本篇の小標題とその下の僅々二三行の解説のみより点載しては無い。本文は全部|其処《そこ》からヒントを得た作者の創作である。
愚人食[#レ]塩喩
[#ここから3字下げ]
塩で味をつけたうまい料理をよそで御馳走になった愚人がうちへ帰って塩ばかりなめて見たらまずかった。
[#ここで字下げ終わり]
なんにも味の無い男だった。逢うとすぐ帽子を脱《と》ってお辞儀をするような男だった。おまけにおとなしく鼻もかむ。
「すこし塩をつけて喰べてみたらどう」
石膏《せっこう》屋のおかみさんが歯朶子《しだこ》に教えて呉れた。おかみさんは歯朶子に払う助手料を差引く代りに石膏置場の小屋を少し綺麗に掃除して呉れた。
「そうねえ。すこし塩をつけて喰べてみましょう」
歯朶子が返事した。
小屋の真中の勇ましい希臘《ギリシヤ》の彫刻に手鞄を預けて歯朶子と男の逢《あ》い曳《び》き――いきなり歯朶子は男の頬をびしゃり[#「びしゃり」に傍点]と叩いた。そして黙ってす
前へ
次へ
全25ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング