が案外気に入って、少しおかしくなった。そして、この親を持つ子供はどんな子供かと、微笑しながら、かの女はあらためてまた青年に眼を移した。
 煙草《たばこ》も喫《す》わないそのむす子は、アイスクリームを丁寧に喰《た》べ終えてから、両手を膝《ひざ》の上へ戻し、弱々しい視線をテーブルの上へ落して、熱心でも無関心でもない様子で、父親と知人の談話を聞いていた。
 かの女はこの無力なおとなしさに対して、多少、解説を求めたい気持になった。
「御子息さまは……学校の方は……何ですか」
 うっかり、何処の学校を、いつ卒業したかと訊《き》きそうになって、こんな成熟不能の青年では、ひょっとしたら、どの学校も覚束《おぼつか》なくはないかと懸念して、遠慮の言葉を濁した。すると案の定、老紳士は、
「どうも弱いので、これは中学だけで、よさせましてな」
と云ったが、格別息子の未成熟に心を傷めたり、ひけ目を感じている様子も見せず、普通な大きい声だった。それから質問のよい思い付きを見付けたように、
「ときに、お宅のむす子さんは……たしか、巴里《パリ》でしたな、まだお帰りにならんかな」
と首を前へ突き出して来た。この種の社会
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