附いて、
「なる程な。そこまで伺えば、よく判《わか》りますて」
といって、下手から、かの女の気持のバランスを取り直すようにした。かの女は少し気の毒になって、ちょっと頭を下げた。
すると、老紳士は、そのまま真面目《まじめ》な気分の方へ誘い込まれて行って、視線を内部へ向けながら、独言のようにいった。
「大乗哲学の極意は全くそこにあるんでしょうなあ。ふーむ。だが、そこまで行くのがなかなか大変だぞ」
そしてそのことと自分のむす子とが、何かの関係でもあるかのように、むす子のこけた肩を見た。むす子は青年にしては、あまりに行儀正しい腰掛け方をしていた。――かの女はこの時、このむす子がずっと前、母親を失っているのを何かの雑誌で見ていたことが思い出された。
老紳士は深刻な顔つきで、アイスクリームの匙《さじ》を口へ運んでいたが、たちまち、本来の物馴《ものな》れた無造作な調子に返った。
「一たい、おくさんのような、華やかなそして詩人肌の方が、また間違ってるかも知れんが、まあ、兎《と》に角《かく》、どうして哲学なんかに縁がおありでしたな」今度は社会教育の参考資料にとでもいった調査的な聞き振りだった。
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