ちゃんと芽を出すのね」
かの女は、こんな当りまえのことを考えながら、思い切って指を出し、蔦の小さい芽の一つに触れると、どういうものか、すぐ、むす子のことを連想して、胸にくっくと込み上げる感情が、意識された。
かの女は、潜《くぐ》り門に近い洋館のポーチに片肘《かたひじ》を凭《もた》せて、そのままむす子にかかわる問題を反芻《はんすう》する切ない楽しみに浸り込んだ。
洋画家志望のかの女のむす子は、もう、五年も巴里《パリ》に行っている。五年前かの女が、主人逸作と洋行するとき、一緒に連れて行って、帰国の時そのまま残して来たものだ。
今日の昼も、かの女は、賢夫人で評判のある社交家の訪問を受け、話の序《ついで》に、いろいろむす子の、巴里滞在について質問をうけた。「おちいさいのに一人で巴里へおのこしになって……厳しい立派なおしこみですねえ。それに、為替がたいへん廉《やす》いというではありませんか。大概な金持の子も引き上げさしてしまうというのに、よくもねえ、さぞ、お骨が折れましょう。その代り、いまに大した御出世をなさいましょう。おたのしみで御座いますねえ」
その中年夫人は黙っているかの女に、な
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