チングが三十点ほど懸け並べられてあった。その前には人々は折り重なって覗《のぞ》き込んでいた。夕刻近いシャンデリヤの仄白《ほのじろ》い光は、人いきれで乳白に淀《よど》んでいた。植木鉢の棕櫚《しゅろ》の葉が絶えず微動している。押し合って移って行く見物の列から離れて、室内には三々五々塊を作って画家らしい連中が立話をしていた。
 K・S氏夫妻は見物に来た滞在フランス人に捕まって、何かしきりに話している。逸作は入口に待ち合せていた美術記者と、雑誌に載せる作品の相談をして室内を歩き廻《まわ》っている。かの女は一人ぽつんとして中央の椅子《いす》に小さく蹲《うずく》まった。 
 見物群の肩と肩との間から、K・S氏の作品がちらちら覗ける。メカニズムのような規則的に表現された物象を押し上げるように、ロマンチックな強烈な陰影が、一種ねばねばする人間性を発散している彼の作品は、何となく新中世紀趣味と云ったような感じをかの女に与えて、先程説明を聴いた所謂《いわゆる》ネオ・コンクレチスムの理論とは、また別なものを感じられる芸術家の芸術家的矛盾にかの女は興味を覚えながら、この部屋に入って来た時から、ちらちら偸視《ぬ
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