だけの感情家である自分の感傷を一言も手紙に書いて来たためしのないのを想《おも》い出しながら、書きかけの原稿紙にいつかこんな字を書いていた。
むす子は厳しい、母は弱い。
母は女で、むす子は男で。――
「そりゃ、なんだい」
と逸作が笑いながら覗《のぞ》いて行った。
あとでかの女はまた書いた。
母は女で、むす子は男、むす子は男、むす子は男、男、男、男――男だ男だと書いていると、其処に頼母《たのも》しい男性という一領土が、むす子であるが為に無条件に自分という女性の前に提供された。凡《およ》そ女性の前に置かれる他の男性的領土――夫、恋人、友人、それらのどれ一つが母に与えられたむす子程の無条件で厳粛清澄な領土であり得ようか。かの女はそれを何に向って感謝すべきか。また自分よりも逞《たくま》しい骨格、強い意志、確乎《かっこ》とした力を備えた男性という頼母しい一領土が、偶然にも自分に依《よ》ってこの世界に造り出された。その生命の策略の不思議さにも、かの女はつくづくうたれて仕舞うのである。
かの女と逸作が用事の外出から帰って来ると、取次のものが少し興奮した調子で、
「巴里《パリ》の坊っちゃんのお知
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