合いの画家がいらっしゃいました。なにしろ東京駅へ着き立てに直《す》ぐ来られたので、鞄《かばん》もそのまま持っていられました」
 かの女の胸に、すぐそれが巴里前衛画派中今は世界的大家であるK・S氏であることが判明した。
「一人で? それとも奥さんと………」
「女の方もご一緒でした」K・S氏は新婚旅行の筈《はず》である。
 取次のものは、K・S氏が携帯した巴里のむす子からの紹介状を差し出した。
 それには態《わざ》と公式めいた簡潔な文で、先頃お知らせしたK・S氏をよろしくと書いてあった。
「で、その方達をどうしたのよ」
「よく運転手にそう云ってTホテルへお送りさしときました。只今《ただいま》、ご主人も奥さまもお留守のことをよく申し上げて」
 何となく機嫌のよくなった逸作が、持前《もちまえ》の癖を出して若者を揶揄《からか》いかけた。
「よく申し上げたとはどうかと思うね。辛うじて申し上げた程度だろう。なにしろ初等科のフランス語ではね」
「いえ、お二人とも英語でお話しでした。ですから僕も久し振りに英語のおさらいだと思って雄弁にやりました」若者は笑いながら舌で唇を嘗《な》めた。
 この上取次を揶揄
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