、わざと昂然《こうぜん》とした態度を採る。その癖で今日も彼独得の陰性を帯びた背の反らし方をして、右手を絶えずやけに振り廻《まわ》していた。
「虚無でなければ無限絶対でないにしても嫋やかで魅力が無ければ僕たち人間には訴えて来ません」
 規矩男の云うことはだんだん独語的になって、何の意味か、かの女にも判らなくなって来た。しまいには規矩男はナポレオンの晩年の悲運を思わせる、か細く丸く尖《とが》った顎《あご》を内へ引いて苦笑した。稚気を帯びた糸切歯の根元に細い金冠が嵌《はま》っている。かの女は急に規矩男が不憫《ふびん》で堪《たま》らなくなった。かの女の堰《せ》きとめかねるような哀憐《あいれん》の情がつい仕草に出て、規矩男の胸元についているイラクサの穂をむしり取ってやった。高等学校の制服を、釦《ボタン》がはち[#「はち」に傍点]切れるほどぴったり身につけている。胸の肉は釦の筋に竪の谷を拵《こしら》えるほどむっちり盛り上っている。紺サージの布地を通して何ものかを尋ね迫りつつ尋ねあぐんでいる心臓の無駄な喘《あえ》ぎを感ずると、何か優しい嫋やかなものに覆い包んで、早くこの若者を靉靆《あいたい》とした気
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