為が、勝手がましくも感ぜられて悲しい。かの女は自分の娘時代の寂しくも熱苦しかった悶《もだ》えを想《おも》い出した。
(山に来て二十日経ぬれどあたたかくわれをいたはる一樹だになし――娘時代のかの女の歌より)精神から見放しにされたまま、物足りなさに啜《すす》り泣いていた豊饒《ほうじょう》な肉体――かの女が規矩男のその肉体をまざまざ感じたその日、かの女は武蔵野へ規矩男を無断で置いて来た。それが最後で規矩男からかの女は訣《わか》れ去って来て仕舞ったのであった。
その日規矩男の書斎から出た二人は、また武蔵野の初夏近い午後をぶらぶら歩き出した。一度日が陰って暗澹《あんたん》としたあたりの景色になったが、それを最後に空は全体として明るくなって来た。木々の若芽の叢《くさむら》が、垂れた房々を擡《もた》げてほのかに揮発性の匂《にお》いを発散する。山中の小さい峠の下り坂のようになって来た小径《こみち》は、赤土に湿りを帯びていて、かの女の履きものの踵《かかと》を、程よい粘度で一足一足に吸い込んだ。
規矩男はまだシェストフについて云い続けていた。そして彼が衷心の感想を話す時のてれ[#「てれ」に傍点]隠しに
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