とは云えませんがね。しかし、人間に対しちゃ責任があるもの、いくら僕だってそんな露骨なことしやしません」
「だって一度恋人だったものがただの許嫁《いいなずけ》に戻ったりして……」
「あのことですか、だって僕は女性がまだあの頃判らなかったし、ただちょっと珍しかったからですよ」
「では、今は珍しくなくって、そして女性が判って来たとでもいうのですか」
「そんなこと云われると、僕はあれ[#「あれ」に傍点]のこと打ち明けなければ好かったと思いますよ。あなたは偉いようでも女だなあ。何も人間の判る判らないのに、順序や年代があると決らないでしょう。本を読んだり年を取ったり、体が育ったりするだけでも、その人の感情や嗜好《しこう》や興味は変って来るでしょう」
「それはそうね。でもその人を貫く大たいの情勢とか嗜好とかの性質は、そう変らないでしょう」
「そうです。それだけに大たいを貫くものにぶっ突からないものは、じきはずれて行くんです」
「それで判ったわ」
「ほんとうですか。書物にだってそうです。自分がその中に書いてあることにむしろ悩まされながら、執着したりかかずらわずにはいられない書物があるでしょう」
「近頃
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