第八信(ベルリンにて)
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ママ、私昨晩から泣き続けですの。今も泣きながら手紙を書いて居ます。昨日飛行場からの帰り途《みち》でジャネットに私がアーミー・ジョンソンの様に女流陸軍飛行家希望の事や、ママが賛成して呉れぬ事を話したの。そしたらジャネットは晩飯の時、イリデ叔母様に話したので、イリデ叔母様は非常に真剣になって自分の考えを聴かせて下さったの――
「あなたのお母様ばかりでなく、全世界の母親は自分の娘が戦争を誘発するような女流軍事飛行家になるのを遮《さえ》ぎるでしょう。ドイツの男達が科学へ科学へと世界人類の精神的幸福という事も考えずに何かしら新しいことを発明しようと猛進して得たものは戦敗と賠償金でした。斯《か》かる無謀を敢《あえ》てしたのはドイツ人の心の底に広大な温かい人類愛が欠けて居たからです。ドイツの娘達が男子と一緒になって殺伐《さつばつ》な競走ごっこばかりして居たからです。スポーツも必要ですけれど心の底の優しい愛の芽をはぐくんで、其の愛の力に依って、逸《は》やる男達の心を和《やわら》げ、社会を楽しい天国のように、他国の人とも融合させて行かねばなりません。あなた
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