なった気で昔の恋人の忘れがたみを育てようというおつもり。」
――そうでもないんだ。」
[#ここで字下げ終わり]
 新吉は釣り竿を引き上げ水中で魚にとられた餌を取りかえて、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――兎も角、おれが巴里で始めて出会った初恋娘のカテリイヌの本当の事情は大分おれの想像と違っていた。あの女はそれほどうい/\しい女でもなければ神聖な女でもなかった。いわば平凡な令嬢だった。それでおれは十何年間も彼女に実は自分の夢を喰わされていたわけさ。自分の不明とはいいながら相当腹が立つわけさ。そこでおれはあの娘を見つけたのを幸い、是非自分の想像していたカテリイヌのように彼女を仕立て上げて見ようというわけさ。」
[#ここで字下げ終わり]
 リサはちょっと狡《ずる》そうな顔をして訊いた。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――仕立て上げたところで、あらためてカテリイヌの代りに愛して行こうとなさるの。」
――違う。おれの想像していたカテリイヌのようにあの娘を仕立て上げる。其の事だけで復讐は充分じゃないか。僕の想像を裏切った死んだカテリイヌにも、僕自身の不明に対しても
前へ 次へ
全73ページ中68ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング