り、ひょうきんに首を縮めたりして調子づいて揉み合っている。傘をさして落着いて踊っている一組に、通りかかりの人がまばらに拍手を送る。
電車の軋《きし》る音、乱れ足で行き違う群集の影。たそがれの気を帯びて黒い一と塊りになりかけている広場を囲む町の家々に燦爛《さんらん》と灯がともり出した。
また疲れて恐迫症さえ伴う蒼ざめた気持ちになって新吉は此処まで来た。新吉のもはや何を想い、何に心をひかれる弾力も無くなって見える様子にベッシェール夫人は惨忍な興味を増した。老女の変態愛は自分も相当に疲れて居ながら新吉を最後の苧《お》がらのように性の脱けたものにするまで疲れさせねば承知出来なくなって居た。それにはジャネットの肉体的にも遊び廻るほど愈々《いよいよ》冴えて来る若さを一層強く示嗾《しそう》して新吉をあおりたてることに努める必要があると思った。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――どう※[#感嘆符疑問符、1−8−78] この先きの貧乏街へ入って最後に飲んだり、踊ったりしない※[#感嘆符疑問符、1−8−78] すっかり平民的になって。」
[#ここで字下げ終わり]
ジャネットに取っても
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