。巴里祭《キャトールズ・ジュイエ》にはあたしが見つけてあげたその娘をぜひ一緒に連れてお歩るきなさい。」
[#ここで字下げ終わり]
 リサはがっちりした腕で新吉の腕を自分の脇腹へ挟みつけながら言った。新吉はステッキも夏手袋も自分が引受けて持っている。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――…………
――いくら処女心《ヴァジン・ソイル》が恋しいからといって、その昔のカテリイヌの面影を探しながらお祭りを見て歩るこうなんて、そりゃあんまり子供っぽい詩よ。そんなことであんたのようなすれっからしに初心《うぶ》な気持ちの芽が二度と生えると思って。」
[#ここで字下げ終わり]
 新吉の酔って悪るく澄んだ頭をアレギザンドル橋のいかつい装飾とエッフェル塔の太い股を拡げた脚柱とが鈍重に圧迫する。新吉はそれらを見ないように、眼を伏せて言った。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――おい後生だから、もう一|音階《オクターヴ》低い調子で話して呉れないか。その調子じゃ、たとえ成程とうなずきたいことも先に反感が起ってしまうよ。」
――あら。そんなにひどい神経になっているの。まるで死ぬ前のフェル
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