B町の唄うたいが揃ってフランスの歴史的の唄をうたって歩いたらこれあずいぶん[#「ずいぶん」に傍点]この国の首都に好い感化を与えますぞ。」
警視長官は面白くもない昔の唄を町の唄うたいが義務で唄う表情を想像して笑いたくなったが我慢して穏かに断った。
ムッシュウ・ドュフランはサン・ドニのキャフェへ帰って行った。審議は仕直された。第二の決議が出来た。すこぶる激越の調子を帯びた決議文が成文された。
「われ等はラジオの拡声器を職業の敵と認める。われらは拡声器に対し戦いを宣す。」
この決議文を握らされてムッシュウ・ドュフランはキャフェを押出された。どこへ持って行ってよいのか聴き返す余裕を興奮した世話子達は許さなかった。ムッシュウ・ドュフランは呆れた顔をして夕暮の明るいイタリー街へ出た。店々では食事時の囃《はや》し唄を町の通へ賑やかに明け放っていた。ムッシュウ・ドュフランはしばらく立止って聴いていたやがて自分も口惜しくなって町へ向って叫んだ。
「ばか! ラジオの馬鹿!」
ダミア
うめき出す、というのがダミアの唄い方の本当の感じであろう。そして彼女はうめく[#「うめく」に傍点]べく唄
前へ
次へ
全9ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング