Cを感じたのはまず町の唄うたいだった。
無意味なことで彼等は暮らしていると思っていることの上に一種の愛感を持ってこれまで世話して来たムッシュウ・ドュフランは彼等の急にしょげた様子を見てこれが当り前だとも思い、それ見たことかとも思わぬでもなかったが、兎に角今は自分の世話子達である。困惑はもっと迫っていた。
或日、例のサン・ドニの門の裏町のキャフェで彼等の集りがあった。ムッシュウ・ドュフランは司会のはじめにいった。
「どうだ、この不景気に乗るような唄をこしらえて見ては。節はなるたけ陰気なのがいい。たとえば、ラ――ラ――ラ――とこんな調子にやったならば。」
彼等はげらげら笑った。市会議員の舌の鳴物入りの忠言なんかはこの道で苦労している彼等には真面目に対手になってはいられなかった。中にはドュフランの調子外れのラ――ラ――ラ――を口真似するものさえあった。
「駄目かね、それじゃどうするのだ。」
ドュフランは少しむっ[#「むっ」に傍点]とした。
喋り好きの彼等が長時間討議し合ってやっと一つの決議が纒った。それははやり唄うたいを巴里の表通へも流して出られるようドュフランにその筋へ運動して貰
前へ
次へ
全9ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング