巴里のキャフェ
――朝と昼――
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)旅人《エトランゼ》は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日|覆《よ》け

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のっ[#「のっ」に傍点]と
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    旅人のカクテール

 旅人《エトランゼ》は先ず大通《グランブールヴァル》のオペラの角のキャフェ・ド・ラ・ペーイで巴里《パリ》の椅子の腰の落付き加減を試みる。歩道へ半分ほどもテーブルを並べ出して、角隅を硝子屏風で囲ってあるテラスのまん中に置いた円い暖炉が背中にだけ熱い。
 眉毛と髪の毛がまっ白な北欧の女。頬骨が東洋風に出張っていてそれで西洋人の近東の男。坊主刈りでチョッキを着ないドイツ人。鼻の尖った中年のイギリス紳士。虎の毛皮の外套を着て、ロイド眼鏡をかけた女があったらアメリカ娘と見てよろしい――彼女はタキシードを着たパリジャンの美青年給仕を眼で追いながら、ふかりふかり煙草を吸っている。オカッパにウエーヴをかけない支那女学生が三四人、巧いフランス語で話し合っている。
 並んだ顔を一わたり見
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