渡して、成程、ヴァン・ドンゲンがいったカクテール時代という言葉を肯定する。
 孔雀のように派手なシアーレが展げてある向う側の女物屋のショーウィンドウの前へ横町からシルクハットを冠ったニグロの青年と、絹糸のようにデリケートな巴里の女が腕をからんで現われた。

    仲好三人

 お多福《かめ》さんとタチヤナ姫と、ただの女と――そう! どう思い返してもこう呼ぶのがいい――が流行の波斯縁《ペルシャぶち》の揃いの服で、日|覆《よ》けの深いキャフェの奥に席を取った。遊び女だ。連れて来た袖猿に栗をあてがって置いて、彼女等はお互いの着物の皺に出来た大小の笑窪を評し合っている。彼女等は誰かここで昼飯|交際《つきあい》の旦那が見つかれば好し、もし見つからなければ仲好三人で今日一日遊んでしまおうという話がまとまった。一人が他の一人に、うっかり商売気を出して仲間にまで色眼はお使いでないよと頬を打つ。きゃっきゃと笑う。
 斜向うのイギリス銀行、ロイド・ナショナル・プロヴィンシアル・バンクの支店から出て来た髭の生えたプラスフォアのイギリス人が日当りの好さそうな卓を選んで席を取った。彼は女達には知らん顔で律儀に
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング