い遠慮をし、私も自然にそれに従っていたのが、式後一ヶ月以上の礼儀正しい二人の生活内容であったのです。

 籔蔭に早咲きの梅の匂う浜田圃の畦《あぜ》を散歩しながら、私は良人が延ばしていた前の妻の墓標を建てることや、珪次の学費の補助のことや、感傷や遠慮を抜いた実質的な相談をしました。蒼溟として暮れかかる松林の上の空に新月が磨ぎ出された。一々私の相談を聞き取って確実な返事をしたのちに良人は和《なご》やかな気持ちになったらしい声で微笑しながら、
「この先の八幡が君の大好物の蒟蒻《こんにゃく》玉の名産地だそうだよ。今晩の夕飯に宿へ取寄せて貰って沢山食べ給えよ」



底本:「岡本かの子全集4」ちくま文庫、筑摩書房
   1993(平成5)年7月22日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
   1974(昭和49)年3月〜1978(昭和53)年3月
初出:「新女苑」
   1938(昭和13)年2月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年3月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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