来、喘息持ちになって、何時《いつ》発作を起すか判らないので誰か必ず附いていなければならない。
このお守りさんの為めにも鈴子は姉として母親代りに面倒を見なければならなかった。女学校を出て既に三四年もたち、自分の体を早くどうにか片付けなければならない大事な時期だというのに、弟のお守りなんかに日を送っていることはつらかった。
「誰も、私の気持ちなんか、本当に考えていて呉れない」
鈴子はそう心に呟き乍らまだ堀へ眼を向けている。
「鈴ちゃん、順ちゃんが苦しんでいるって言っているのに判らないかい」
母親の嘆くような声が再び聞えると鈴子はしぶしぶ立ち上って「私だって苦しいんだわ」とやけ[#「やけ」に傍点]に思った。しかし、いつまでしぶってもいられなかった。彼女は、急にしゃがんで小石を拾うと先刻ボラのような魚の現われた辺を目がけて投げ込んだ。すると、変な可笑しさがこみ上げて来た。鈴子は少し青ざめて、くくと笑い乍ら弟の様子を見に家へは入って行った。
底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月24日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十四卷」冬樹社
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