お友達が沢山来た。日本のごもくめし[#「ごもくめし」に傍点]の好きな連中でした。夕方から、そのなかのSというプロレタリア党が「俺達の教会」へ私を連れて行こうと言うのです。するとN嬢が、その前に百貨店の飾窓のクリスマス・デコレーションを、私に是非見せ度いと言い張りました。プロレタリア党は、じゃFちゃんNちゃんTちゃんプチブル党だけが行って来な。俺達は茲で疲れやすめだ(クリスマス前夜の賑かな労働者街のダンスホールで踊り明したのでしょう。)と言って椅子の背へもたれてしまいました。
諸嬢と市中へ行く。世界的百貨店[#「百貨店」は底本では「百貸店」]、ウェルトハイムの大飾窓に煌《きら》めく満天の星、神木の木の下の女神を取巻く小鳥、獣類、人間の小児《こども》、それらを囲る幽邃な背景が、エンジンの回転仕掛けで、めぐる、めぐる。次はヘルマン・チェッツ百貨店の二三町もあり相な延大な飾窓は、殆ど実物大の小屋の数層を数多見せ、サンタクロースが壮厳にある屋根から降りつつ見る下の此処彼処の家に、小児が贈物を待ちつつ眠るところ、何れも豪華に独逸の精力的な重大性を見せたものです。
「俺達の教会」では思わず吹き出し、そして感心しちまった――何とおめえ達そうじゃあねえか、信ぜよ、そして働けよ、だ。――これがプロレタリア牧師さんの言葉。聴手は勿論プロレタリア諸君。夜は医科大学生F兄弟の宅へ招ばれ、素晴らしく大きなクリスマス・ツリーの下で御馳走になり乍ら、医科大学の教室でつくるツリーへかける飾付けは、人間の心臓や肺、そのあらゆる人体諸臓器の形をボール紙で造らえて色彩《いろどり》をつけたものだという話など聞き夜を更かしました。
底本:「世界紀行文学全集 第七巻 ドイツ編」修道社
1959(昭和34)年8月20日発行
※題名の「伯林の降誕祭」には「ワイナハト・イム・ベルリン」のルビがついています。
入力:門田裕志
校正:田中敬三
2006年3月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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