。花屋の店の氾濫、カード屋のカード字も独逸風のややっこしい装飾文字が太く賑やかに刷られて居るのも、他の国のとは自然違う感じです。
道端、街角、寸隙の空地、あらゆる所に樅の小林が樹ちます。ベルリン郊外の森林から伐り出して来るのです。世界で一番ベルリンがクリスマスツリーを、氾濫させるのだそうです。多く質朴な農夫の夫妻らしいのが、番をして売って居ます。絶えず降り積もる雪が地面にたまって根の無い樅を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し並べて幹を直立に保たせて居るのです。
さて、いよいよ私がベルリンで経験したクリスマスの当日になりました。朝、一番早く私の扉をたたいたのは、家主の娘さんでした。娘さんは、国から国へ渡って歩くレヴュー・ガールでした。娘さんは、その時スイッツルの雪娘に扮する時の着物を着て来ました。純白に襞の多い着物と、頭の白い花の冠が非常によく似合い、私に持って来たクリスマス・プレゼントのチョコレートの箱の飾リボンの縁が、清楚にうつり合った色彩は、私に思わずつかつかと傍へ寄らしてしまったような、好もしい感じを与えました。だが娘さんは、私に箱を与えると、いつもの懐しげな様子に似ずどんどん早足に帰ろうとします。私はお返しが上げ度くも気がせいて、手近に有合せの日本から持って行ったものを、一つかみにしてあとを追いました――猫の毛でつくった日本の細筆三本、五色のつまみ[#「つまみ」に傍点]細工の小箱一つ、桜の縫いのしてあるハンカチ一枚――あとで考えても、おかしな贈物でした。直ぐあとから、こつこつ可愛らしい靴の足音がして、パン屋の七つになる女の児が、パンとお砂糖でつくった猫を持って来て呉れた。猫の首まきへ私がいつか教えてやった[#「やった」は底本では「やつた」]日の丸を真似てこしらえた小さな日章旗と独逸の旗を二本※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して来た。そして――おねえちゃま(外国人には東洋人の年齢がなかなか解らない)はい、クリスマス――と言ってさし出しました。私はあんまり可愛ゆくなって、日本から持って行った藤の花を描いた日傘を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]しかけて返して上げた。これもあとから思えばおかしな贈物。
午後からは、男女まぜこぜのベルリン大学の
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング