ソン》たちが眺めのいい窓の卓子《テーブル》へ集まってゆっくり晩飯を食べていた。当番の給仕男が同僚たちに客に対すると同様に仕付《しつ》けよく給仕していた。
「今日は遊びかね。」
 という声がした。すぐそれは探偵《たんてい》であることが判《わか》った。リゼットは怖くも何とも無《な》かった。この子供顔の探偵は職業を面白がっていた。リゼットが始めて彼に捉《とら》えられてサン・ラザールの館《シャトウ》――即《すなわ》ち牢屋《ろうや》へ送り込まれるときには生鳥《いけどり》の鶉《うずら》のように大事にされた。真に猟《りょう》を愛する猟人《かりうど》は獲《え》ものを残酷《ざんこく》に扱うものではない。そして彼女が鑑札《かんさつ》を受けて大びらで稼ぎに出るとなるとこの探偵は尊敬さえもしてくれた。尊敬することによって自分が一人前にしてやった女を装飾《そうしょく》することは職業に興味を持つ探偵に取って悪い道楽《どうらく》ではなかった。
「可愛《かわい》い探偵さん。鑑札はちゃんと持っててよ。」
 リゼットはわざと行人《こうじん》に聞《きこ》えるような大きな声を出した。
「ああ、いいよ、いいよ、マドモアゼル。」
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