は盃を返礼した後|云《い》った。
「だがこのもくろみをレイモンが知ったら何と思うだろうね、リゼット。」
リゼットはさすがにきまり[#「きまり」に傍点]の悪さを想像した。彼女の情人《じょうにん》は一《いっ》さい「技術」というものを解《げ》さない男だった。彼女は云《い》った。
「まあ、知れるまで知らないことにしようよ。あいつ[#「あいつ」に傍点]に玄人《くろうと》のやることはめったに判《わか》りゃしないから。」
三人は修繕《しゅうぜん》中のサン・ドニの門を潜《くぐ》って町の光のなかに出た。リゼットの疲れた胃袋に葡萄酒《ワイン》がだぶついて意地の悪い吐気《はきけ》が胴を逆にしごいた。もし気分がそのまま外に現われるとしたら自分の顔は半腐《はんぐさ》れの鬼婆《おにばば》のようなものだろう。彼女は興味を持って、手提鞄《てさげかばん》の鏡をそっと覗《のぞ》いて見る。そこには不思議な娘が曲馬団《きょくばだん》の馬を夢みている。この奇妙さがふたたびリゼットへ稼業《かぎょう》に対しての、冒険の勇気を与えて彼女は毎夜《まいよ》のような流眄《ながしめ》を八方に配り出した。しかも今夜の「新らしい工夫」に気付
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