た。
 アンリーは狂気のようになって探し廻った。お京さんの実家へ訴えた。どうにもしようがなかった。国籍のことからまだ届けはしてなかったので公には出来なかった。
 露地の中の隠れ住いを二ヶ月ばかりしてお京さんは身体の為めに海岸の療養院へ転地した。そこへ、お京さんが立つときと加奈子が洋行するときと殆んど一緒だったので両方忙しいなかを繰り合せて隅田川の流れに沿っている鰻《うなぎ》屋の二階で二人は訣《わか》れを惜んだ。お京さんは言った。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――人間に魂ってものがあるのでしょうか。
[#ここで字下げ終わり]
 加奈子はこれによく答え得なかった。それとみてお京さんは返事を受取るのをやめて言った。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――人間に魂があるとしても、あたしの魂には何んだかすっかり殻のようなものが出来てしまってるようね。だからどっちへ向けても人の魂と触れた感じはしなくなってしまったのね。ああ、人間で魂と魂と触れ合うという感じはどんなものでしょう。
[#ここで字下げ終わり]
 そうしてお京さんは加奈子の丸い手を執った。
[#ここから改行天
前へ 次へ
全34ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング