二度に過ぎなかったのだけれど、そのときアンリーから心付けを貰った配達夫はその後も自分で絵葉書を買って配達壜に結びつけお京さんの好意だといって心付けを貰った。そしてお京さんがアンリーを忘れてしまった時分にすっかり馴染《なじ》みがついたつもりのアンリーはお京さんとその両親を晩餐に招いた。三人は行った。
それから本当に馴染がついてしまってアンリーもお京さんに嫁の望みを言い出せるようになった。お京さんはうかうかしていた。士族から率先して牛乳屋になった程の両親が外国人に望まれるということに誇りを感じ、かたがた若い西洋人のひとりものらしい肩のこけように義侠心を起し一人娘をやると決心した。
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――うちの三代目はあいの子でさ。
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父親は頭を掻きながら遇う人に結婚を吹聴した。
純粋の日本風でというので結婚式は大神宮の神式で行われた。白百合の五つ紋の黒紋付できちょうめんに坐ったアンリー。高島田に笄《こうがい》が飴色に冴《さ》えているお京さん。神殿の廊下の外には女子供が立集って、きゃきゃと騒いだ。加奈子もまじった。列席の二三の親しい友
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