》んだ。
 日本の娘さんと正式の結婚をしたい。仏蘭西人アンリーのこういう願いからお京さんはアンリーに貰われた。アンリーはリヨンで王党の党員だったが矯激の振舞いがあったのでしばらくフランス縮緬《ちりめん》の輸出の仕事を請負って東洋へ来た。フランスから日本へは、たいした輸出品もないのだが、その中でも女の洋服地が一番崇高なものである。それで崇高な交易の途を追って日本へ来た。日本へ来てからは母国で矯激な振舞いなぞあったとも見えぬような律義な青年だった。千代田のお城の松をしきりに褒《ほ》めていた。そうかといって丸の内に建て増す足場無しに積み上げて行くアメリカ式のビルデングも排斥はしなかった。あれだってやっぱり日本人が拵《こし》らえたところはよく見えますよ。細部の行き亘っているところがやっぱり日本の建築ですね。などと如才なく言って居た。
 お京さんの家はちょっと大きい牛乳屋だった。×××種の牛を輸入して新聞に写真の広告を出していた。アンリーの家へも牛乳を入れていた。西洋人に異様な興味を持つ年頃であるお京さんは配達夫が持って行く牛乳の壜《びん》に日本の名所の絵葉書なぞ結びつけてやった。そんなことは一
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