お帰りかい。あなた、これがうちのです。
[#ここで字下げ終わり]
 その男は横目でお琴のコップを睨《にら》みながら、気まずそうに頭を下げた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――むかしっからよくごひいきにして頂いたんだよ。よくお叩頭《じぎ》してお礼を言いなさいよ。
[#ここで字下げ終わり]
 それから加奈子に向って、
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――この人、生意気に頭なんか分けてるんですよ、お婆の、かみさん持ってるくせに。
[#ここで字下げ終わり]
 若い小男は急に頭を持上げて小声で怒鳴った。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――ばかッ――。また酔ぱらったな。
[#ここで字下げ終わり]
 それからさっさと土間からかけてある梯子段《はしごだん》で向うむきのまま靴を脱ぎ、メリンスのカーテンの垂らしてある中二階へ上って行った。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――あんなに怒った顔をしていても直ぐに何でもなくなるんですよ。あたしゃ、すっかり男のこつを覚えましてね。今から考えるとやり方によっては先の亭主もあの養子野郎もあんなに増長させず
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