に見せたら、さぞまた悪口の種になるだろうと思いますと死に切れませんでね。そこで死に身になって料簡《りょうけん》を逆に取りましてね。
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 まえから幾らか酒がいけ、飲むと平常と違ってよくしゃべる女ではあったが今日は加奈子に久しぶりで逢った亢奮からまた余計にしゃべり度いらしかった。
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――もっとも素直には鬼奴らはあたしを家から出しませんからね。あんかを蹴っくり返しましてね。あいつらが周章《あわ》てて騒いでるうちに家を飛び出しましたよ。跣足《はだし》ですよ。そして最初裁判所だと思って飛び込んだのが海軍省でしてね。
――おばさん、此頃毎日お酒なんか飲むの。
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 お琴は二つ三つわざと舌打ちして見せて、
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――ええ、えい、毎日お酒も飲みますしね。亭主も持ちますしね。は は は は は。
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「おばさんひらけたのね」
 そこへ洋服に鞄《かばん》を抱えて気が重そうな若い小男が入って来た。
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――お前さん、
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