き》の並木があり、その先は折れ曲っているので玄関はどのくらい先にあるか判らない金持の邸の並木の欅五六本目のところでカーキ色の古ズボンを穿いた老人が乾した椎茸《しいたけ》を裏返している。こんな町中で椎茸が栽培出来るのか。
 金持の邸の玄関道が妙に曲っているのでそのカーヴの線と表通りの直線とに挟まれて三日月形になった空地がある。信託会社の分譲地の柱が立っている。ふさがっているのは表通りの右端の二区切りだけで、あとは古障子やら藁《わら》やら一ぱい散らかったまま空いている。それ等を踏んで子供が野球をやっている。空地を覘《うかが》うのは何国の子供も同じだ。ある夏ロンドンで珍らしい暑い日があった。兜帽《かぶとぼう》を冠った消防夫に列んで子供が頭から水管の水をかけて貰っていたのはやっぱり斯ういう建壊しのあとの空地だった。犬のお産を子供等に見せないように天幕張りをしてしまって居たのもロンドンの空地だった。
 仲が好さそうにもあり、張り合ってるようにも見える二区切りの土地の上の洋館のけばけばしい安普請の一方には歯科医、一方にはダンス練習所の真鍮札がかかっている。お京さんはよく迷う女だ、斯ういう軒並を見せ
前へ 次へ
全34ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング