四天になって踊るのだが外人の踊りを見慣れた眼には娘の手足がまるで唐草模様のように巻いたりくねって動くのが人間より抜けていた。顔と身体は人形で手足だけ人間以上の生命を盛っている。そういえば巴里《パリ》の踊り場でみる日本のタンゴというものが腰に異様なねばりと業《わざ》があってみんな女と柔道をやっているもののように眺められた。三度目に加奈子が振返ったときに男の子は定めた方向へ行くのをやめて加奈子の方へついて来た。加奈子は男の子の飛出した荒物屋を眺めた。
日々に壊滅して行く伯林《ベルリン》の小産階級。あすこでこういう程度の荒物屋は荒物商いだけでは勿論足りないので大概素人洗濯を内職にしていた。親一人、子一人。娘が一人あるにはあるが他所《よそ》へ間借りをして職業婦人になっている。かたわら富裕な外国人を友達に持ちたがっている。持つかと思うと不器量で逃げられる。母親の手一つでやる素人洗濯だが西洋の肌着のことゆえ蝋引《ろうびき》だけは専門家同様しなくてはならない。それで狭い土間に一ぱいの火のし機械を据えている。暇があればそれに取りついていて彼女自身もすっかり乾燥してしまっている。欧洲大戦で毒|瓦斯《ガ
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