》掬《すく》い上げ度い程、加奈子に珍らしく勿体ない。
加奈子は夜おそく日本へ帰った。翌日から三日ばかり家の中に籠《こも》って片付けものらしいことをして四日目に始めて出て見る日本の外の景色が出発四年前の親しみも厚みも、まだ心に取り戻してはいなかった。ただ扁《ひら》たく珍らしいばかりだ。が少し歩るいて居るうちに永年居慣れた西洋の街や外景と何も彼《か》もが比較される。
隣家との境の醜部露出狂のような溝《どぶ》に魚の鱗《うろこ》が一つかみ、爛《ただ》れた泥と水との間に捨てられていた。溜ってぼろ布のように浮く塵芥《ちりあくた》に抵抗しながら鍋膏薬《なべこうやく》の使いからしが流されて来た。ロンドンの六片均一店《シキスペンスストーア》で売って居る鍋膏薬は厚くて重たい程だった。世界的不況時代にせめてロンドンでの鉄の贅沢《ぜいたく》だった。それを器用に薄く、今流れて来た日本のものは要領を得ている。外国の文化を何んでも真似て採り込むのに日本は早い。鍋膏薬の使いからしは鱗の山の根にぶつかった。鱗の崖が崩れて水に滑り落ちた幾片は小紋ぢらしのように流れて行く。ちち色の水を透して射る鱗の閃《ひらめ》きに加奈
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