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岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)潜戸《くぐりど》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|茲《ここ》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)一メートル八インチ[#「インチ」に「(ママ)」の注記]
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 おもて門の潜戸《くぐりど》を勇んで開けた。不意に面とむかった日本の道路の地面が加奈子の永年踏み馴れた西洋道路の石の碁盤面《ごばんめん》の継ぎ目のあるのとは違った、いかにも日本の東京の山の手の地面らしく、欠けた小石を二つ三つ上にのせて、風の裾に吹かれている。失礼! と言い度《た》い程加奈子には土が珍らしく踏むのが勿体《もったい》ない。加奈子の靴尖《くつさき》が地面の皮膚の下に静脈の通っていなそうな所を選んで鷺《さぎ》のように、つつましく踏み立つ。加奈子は辷《すべ》りかけたショールを胸の辺で右手に掴《つか》み止め、合《あわ》せ襟《えり》になった花と蔓《つる》の模様の間から手套《しゅとう》を穿《は》めていない丸い左の手を出して陽に当てて見た。年中天候のどんよりして居た西洋と比らべて日光も亦《また
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