桃のある風景
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)渦《うず》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)東京|端《はず》れ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あこがれ[#「あこがれ」に傍点]が、
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食欲でもないし、情欲でもない。肉体的とも精神的とも分野をつき止めにくいあこがれ[#「あこがれ」に傍点]が、低気圧の渦《うず》のように、自分の喉頭《のど》のうしろの辺《あたり》に鬱《うっ》して来て、しっきりなしに自分に渇《かわ》きを覚《おぼ》えさせた。私は娘で、東京|端《はず》れの親の家の茶室《ちゃしつ》作りの中二階に住んでいた頃である。私は赤い帯を、こま結びにしたまま寝たり起きたりして、この不満が何処《どこ》から来たものか、どうしたら癒《いや》されるかと、うつらうつら持て扱っていた。
人が、もしこれを性の欲望に関する変態のものだったろうと言うなら、或《あるい》はそうかも知れないと答えよう。丁度《ちょうど》、年頃《としごろ》もその説を当嵌《あては》めるに妥当《だとう》である。しかし、私はそう答えながら、も
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