のごとを片付けるなら一番あとにして下さいと頼《たの》む。それほど私には、片付けられるまでの途中の肌質《きめ》のこまかい悩《なや》ましさが懐《なつ》かしく大事なのだから。
母は単純に病気だということに決めてしまって、私の変《かわ》った症状《しょうじょう》に興味を持って介抱《かいほう》した。「お欠餅《かきもち》を焼いて、熱い香煎《こうせん》のお湯へ入れてあげるから、それを食べてご覧《らん》よ。きっと、そこへしこ[#「しこ」に傍点]ってる気持《きもち》がほごれるよ。」「沈丁花《ちんちょうげ》の花の干《ほ》したのをお風呂へ入れてあげるから入りなさい。そりゃいい匂《にお》いで気が散《さん》じるから。」母は話さなかったが、恐らく母が娘時代に罹《かか》った気鬱症《きうつしょう》には、これ等《ら》が利《き》いたのであろう。
色、聞、香、味、触の五感覚の中で、母は意識しないが、特に嗅覚を中心に味覚と触覚に彼女の気鬱症は喘《あえ》きを持ったらしいことが、私に勧《すす》める食餌《しょくじ》の種類で判《わか》った。私もそれを好まぬことはなかった。しかし、一度にもっと渾然《こんぜん》として而《しか》も純粋で
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング