の次男の家へかからしめた理由なのであった。
「私もときどき父に附添って歩くうちに、どうやら東海道の面白味を覚えました。この頃は休暇毎には必ず道筋のどこかへ出かけるようにしております」
 小松技師は作楽井氏に就ていろいろのことを話した。作楽井氏も晩年には東海道ではちょっと名の売れた画家になって表具や建具仕事はしなくなったことや、私の主人に、まだその後街道筋で見付けた参考になりそうな事物を教えようとて作楽井氏が帳面につけたものがあるから、それをいずれは東京の方へ送り届けようということや、作楽井氏の腰の神経痛がひどくなって床についてから同じ街道の漂泊人仲間を追憶したが、遂に終りをよくしたものが無い中にも、私の主人だけは狡くて、途中に街道から足を抜いたため、珍らしく出世したと述懐していたことやを述べて主人を散々に苦笑させた。話はつい永くなって十時頃になってしまった。
 小松技師は帰りしなに、少し改って
「実はお願いがあって参りましたのですが」
 と言って、暫く黙っていたが、主人が気さくな顔をして応《う》けているのを見て安心して言った。
「私もいささかこの東海道を研究してみましたのですが、御承知
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