ち潜んだ気配を感じて、やや憎みさえ覚えた。今日は海へはいり度《た》く無いな、と思った。(はいったとて私はどうせろくに泳げないのだけれど)徹夜の仕事を続け睡眠不足に疲労した主人はなお入れ度くないと思った。
赫子は私のそんな思わくなどに頓着《とんちゃく》なく、ずんずん私を促し立てて私を婦人更衣場へ連れ込んだ。同様に男子更衣場へは麻川氏が主人を連れて行った。私は赫子の裸を始めて見た――真白だ。馬鈴薯の皮を剥《む》いた白さだ。何という簡単な白さ。魅力の無い白さ。私は茲《ここ》でも赫子に一つ失望した。茲でもというのは、私は大分以前から赫子に失望し始めて居たからであった。何故、一々、失望するほど、赫子に注意を私は払うのか。赫子の義兄大川宗三郎氏の陰影の深い耽美的《たんびてき》作品に傾倒して居た私が大川氏の愛玩《あいがん》すると評判高い赫子に多くの価値を置こうとするからだった。始め私は磨きの好い靴の先や洋装の裾《すそ》のひらめきや、ずばずばしたもの云いに赫子を快活なフラッパーな文化的モダンガールだと思って好奇心を持った。だが、それらの表面的なものに馴れて、珍らしさを感じなくなった中頃から、私は赫子
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