云い草が、あんまりユーモリスチックなんで、私は、くるっと体を向き変え声を立てて笑って云った。「そして、このお姉様も、およそ面倒くさい、うざうざじゃないかねえ。」「ふふん、仕方が無い、さ。」従妹はぱたん、と棕梠《しゅろ》バタキで蠅《はえ》を叩《たた》いた。
一しきり昼寝して起きて従妹に羊羹《ようかん》を切らせ、おやつにして居ると、障子の外で、ことん、ことん、廊下を踏む足音がする。「どなた?」と従妹が立って行く先に障子を細目に開けたのは麻川氏だった。「やあ、お茶ですか、また来ましょう。」私は先刻の事などひと寝入りして忘れて仕舞ったあとなので「いいえおはいり下さい。藤村の羊羹が東京から届きましたの。」愛想よく麻川氏に座蒲団《ざぶとん》をすすめた。氏は片手に紙挟《かみばさ》みのようなものを持ってはいって来た。私達のすすめる羊羹を、「うまいですな。」と一切|喰《た》べた。そして何か落ちつかない様子で、まじまじ襖《ふすま》や床の間を見て居たが、やがて紙挟みを私の前へ出して、「これ御覧になりませんか。」私「何ですか。」麻川氏「ブックの間から偶然出て来たんですよ。」
私は何気なく氏の手から受け取っ
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