かなかつたほど老婢は何か思ひ入つてゐた。
ひろ子が何を囁いて何をまき[#「まき」に傍点]が思ひ入つたのか家へ帰つてから私が訊《き》くと、まき[#「まき」に傍点]は言つた。「をばさん御免なさいね。けふ家の人たち奥で見てゐるもんだから、お店の規則破れないのよ。破るととてもうるさいのよ。判つて」ひろ子はまき[#「まき」に傍点]の浴衣の背筋を直す振りして小声で言つたのださうである。まき[#「まき」に傍点]はそれを私に告げてから言ひ足した。
「なあにね、あの悪戯《いたずら》つ子がお茶汲んで出す恰好《かっこう》が早熟《ませ》てゝ面白いんで、お茶出せ、出せと、いつも私は言ふんで御座《ござ》いますがね、今日のやうに伯母《おば》夫婦に気兼《きが》ねするんぢや、まつたく、あれぢや、外へ出て悪戯でもしなきや、ひろ子も身がたまりませんです」
少し大きくなつたひろ子から、家を出て女給にでもと相談をかけられたのを留めたのも老婢《ろうひ》のまき[#「まき」に傍点]であつたし、それかと言つて、家にゐて伯母夫婦の養女になり、みす/\一生を夫婦の自由になつて仕舞《しま》ふのを止《や》めさしたのもまき[#「まき」に
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