禅僧、これなるは紀州光明寺の法眼と申す連れの僧、御主人も在らばお目にかかり度《た》い」
と堅苦しく申入れました。取次ぎの女中から様子を聴いた茶屋の主人はびっくりしました。何の用事か知らないが、法眼、円通といえば当時噂に高い清僧たち、失礼があってはいけないと言うので、女中たちに云い含め、いとも丁寧に座敷へ通して正座に据え、自分は袴羽織で挨拶に出ました。これを見て、感心した法眼は円通に向って言いました。
「どうだ、茶屋というものは礼儀正しいものではないか」
主人が用向きを訊いてみると格別のことも無い様子、話の具合では、どうやら茶屋の遊びという事を清僧らしく簡単に思い做して、何も知らずに試みに来た様子。主人四郎兵衛は一時は商売並みにこの坊さんたちを遊興させて銭儲けをしようかとも思いましたが、二人の様子を見るのに余りに俗離れがしていて純情無垢のこども[#「こども」に傍点]に還っているのでこれに色町の慣わしのものを勧めるというのはどうにも深刻過ぎるように思え、また、二人の様子の、こども[#「こども」に傍点]の無邪気さに見えていながら、吹抜けてからっとした態度には、実に何もかも知り尽していなが
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