らわざと愚を装っているのではあるまいかと疑われるような奥底の知れない薄気味悪いものを感じまして、何も今更、自分等が職業にしているような普通人に魅力に感ぜられるものを、これ等の達人に与えて見せたところで、何だ、これしきのものかと一笑に附されるばかりでなく、あべこべに浅ましいこちらの腹の底まで読み取られそうな気がして、どう待遇したものか、四郎兵衛は思案に暮れていました。
夏の事ですから道喜の笹ちまき、それに粟田口のいちご[#「いちご」に傍点]、当時京都の名物とされていたこれ等の季節のものを運んで女中二三人が入れ交り、立ち交り座敷へ現れました。いずれも水色の揃いの帷子《かたびら》に、しん無しの大幅帯をしどけなく結び、小枕なしの大島田を、一筋の後れ毛もなく結い立てています。京女の生地の白い肌へ夕化粧を念入りに施したのが文字通り水もしたたるような美しさです。円通は先程からまじまじと女達の姿に見入っていましたが遂々《とうとう》感嘆の声を立てました。
「いや驚くほど美しい娘さんたちだ。揃いも揃って斯ういう娘さんがたを持たれた御主人は親御としてさぞ嬉しいことであろうな」
酌婦をすっかり此の家の令嬢
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