うのが丁度此の時分に出来て、モダンな遊里として市中に噂が高かった。それがどうやら、二禅僧の耳にも入りました。もとより噂を生聴きの上、二人の性格からしても、その内容を察しられそうにも思われません。ただ
「折角《せっかく》、京都へ来た事でもあるから、その評判の茶屋とかいうものも見学しとこうではないか」
このくらいな、あっさりした動機で二人は連れ立って茶屋探険に出かけました。
襟《えり》の合せ目から燃えるような緋無垢《ひむく》の肌着をちらと覗かせ、卵色の縮緬《ちりめん》の着物に呉絽《ごろ》の羽織、雲斎織の袋足袋《ふくろたび》、大脇差、――ざっとこういう伊達《だて》な服装の不良紳士たちが沢山さまようという色町の通りに、僧形の二人がぶらぶら歩く姿は余程、異様なものであったろうと思います。二人は、簾《すだれ》を垂らした中から艶っぽい拵《こしら》え声で「寄らしゃりませい寄らしゃりませい」とモーションをかけている祇園の茶屋を、あちらこちらを物色して歩きましたが、いかさま探険するなら成るたけ大きな家がよかろうというので、門構えの立派な一軒へつかつかと入りました。そして
「私は摂津国法福寺の円通と申す
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