、大層なおもてなしを頂きまして有難う存じました………あれから暫くの間考え込んで居りましたがふと思いついてあのようなことを始めましてから夫の日々が追々晴やかになりまして、あのものぐさが跣《はだし》で庭の草取りはする、肥料汲みから薪割り迄………とりわけ薪割は大好きだと申しまして………無心で打ち降す斧が調子よく枯れた木体をからっと割る時の気持ちの好さは無いなど申しまして」
「昼間がそれで、読書や書きものなど夜にでもなさるとしたら………お疲れでも出なければ宜いがな」
田氏は少しためらった後思い切って言った。
「いくら夫をおひいきのあなた様にでもこのようなこと申し難いので御座いますが………実は夫は此頃《このごろ》読書も書きものも殆ど致さなくなりました。先夜なども、今まで読んで居た本が却って目ざわりだと云って、さっさと片づけにかかりましてその代りの夜なべ仕事に近所の百姓達を呼びまして豚飼いの相談を始めました。豚を飼って、ことによったら豚小屋へ寝る夜もあるか知れないなど申し、豚の種類の調べや豚小屋の設計まで始め、自分で板を割ったり屋根葺《やねふ》きを手伝ったり………」
「うむ」
支離遜は唸るよう
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