の奴婢を貯え女貴族のようなくらしをしていた。この中に入った麗姫が努めずしてたちまちその三人を抜いて仕舞ったというのには、何か彼女に他と異なった技巧でも備って居たのかと云うに、却ってそれは反対であるとも云える。彼女は我儘で勝手放題気にいらなければ貴顕の前で足を揚げ、低卓の鉢の白|牡丹《ぼたん》をその三日月のような金靴の爪先きで蹴り上げもした。興が起れば客の所望を俟《ま》たないで自ら囃《はやし》を呼んで立って舞った。悲しみが来れば彼女は王侯の前でも声を挙げてわあ、わあ泣いた。涙で描いた眼くまの紅が頬にしたたれ落ち顎に流れてもかまわなかった。それから彼女は突然誰の前でも動かなくなり暫く恍惚《こうこつ》状態に陥ることがある。何処《どこ》を見るともない眼を前方に向け少しくねらす体に腕をしなやかに添えてそのままの形を暫く保つ――そなたは何を見て何を考えるのかと問う者があれば、わたくしは母のことを始め一寸《ちょっと》想い出します。父が讒《ざん》せられた後の母は計られない世が身にしみて空を行く渡り鳥の行末さえ案じ乍ら見送りました。でも、その苦労性な母を思ってわたくしは、そんな苦労は、いや、いや、わたく
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