新茶
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)茶椀[#「椀」にママの注記]の

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
(例)しみ/″\
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 それほど茶好きでなくとも、新茶には心ひかれる。
 あの年寄りじみた、きつい苦みがないし、晴々しい匂ひがするし、茶といふよりも、若葉の雫を啜るといふ感じである。
 色がいゝ。白磁の茶椀[#「椀」にママの注記]の半を満してゆらめく青湖の水。
  さなりき、誘ふニンフも
  誘はるゝ男妖精も共に髪ぞ青かりし
 揺曳とした湯気の隙間から、茶椀の岸にさういふ美麗が見えるやうな気がする。

 その茶椀を掌に享けて一口、二口、唇に触れては庭を眺める。実を付けた若楓の枝の下に池が在つて、底に透く陽光の水の宙に篦鮒が、昨年孵つた一寸ばかりの子鮒を四つほど従へて鰭を休めてゐる。このとき、身に合つた袷の上に、やゝ幅狭の博多帯が硬からず緩からず胸に締つてゐて呉れれば、他に何を望まう。しみ/″\日本の土に生れて日本の女であるこ
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