僕は自分の好きな女とまさか純粋な弟のような気持で交際《つきあ》って行くほど、甘い偽善者でもありません。つまり離れるんですね。僕は恋愛した女とはみんなこの気持ちで離れました。
 尾佐さんとはこういう問題について話し合ったことは一度もありませんが、彼は僕と同じような考えを恋愛に持っていたのに、つい恋愛を結婚に進めて仕舞ったのですね。彼は内心そのことを悔いているに違いないのです。あの男がニヒリスチックに白々しくなっているのは、実は栖子との同棲で彼の理想の生々した恋愛の永続を失ったためだと僕には推断されますね。
 僕はあちらへ行ったら、尾佐さんにもうそのことは観念して、早く平凡な夫になって、普通の幸福を栖子に与えてやれと、勧めてやる積りです。
 僕もかなり疲れました。それに、胸の方も少し痛めているので、あの和かな水と花で飾られてある和蘭《オランダ》で、職業を研究しながら、体を恢復して来るつもりです。.
 僕は今たった一つのことしか考えていません。それは――和蘭からその日その日の刈り取った花を飛行機に積んでロンドンの花店へ運ぶ役目です。僕は是非それを引き受けてやります」



底本:「岡本かの子
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