との変哲もない家庭生活に思わず月日を過し子供も生れてしまった。もう一人檜垣の家の後嗣《あとつぎ》に貰える筈《はず》の子供が生れるのを伯母さんは首を長くして待受けている。
今宵《こよい》、霧の夜の、闇《やみ》の深さ、粘りこさにそそられて鼈四郎は珍らしく、自分の過ぎ来た生涯を味い返してみた。死をもって万事清算がつく絶対のものと思い定め、それを落付きどころとして、その無からこの生を顧り、須臾《しゅゆ》の生なにほどの事やあると軽く思い做《な》されるこころから、また死を眺めやってこれも軽いものに思い取る。幼児の体験から出発して、今日までに思想にまで纏《まと》め上げたつもりの考え。
しかる上は生きてるうちが花と定めて、できることなら仕度《した》い三昧《ざんまい》を続けて暮そうという考えは、だんだんあやしくなって来た。何一つ自分の思うこととてできたものはない。たった一つこれだけは漁《あさ》り続けて来たつもりの食味すら、それに纏《まつわ》る世俗の諸事情の方が多くて自分を意外の方向へ押流し、使い廻《まわ》す挺《てこ》にでもなっているような気がする。
霰《あられ》が降る。深くも、粘り濃い闇の中に
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