。いくら降っても降り白められない闇を、いつかは降り白められでもするかと、しきりに降り続けている。
夜も更けたかして、あたりの家の物音は静り返り、表通りを通る電車の轟《とどろ》きだけがときどき響く。隣の茶の間で寝付いたらしい妻は、ときどき泣こうとする子供を「おとうさんがおとうさんが」と囁《ささや》いて乳房で押て黙らせ、またかすかな寝息を立てている。鼈四郎が家にいる間は、気難しい父を憚《はばか》り、母のいうこの声を聞くと共に、子供は泣きかかっても幼ごころに歯を食い縛り、我慢をする癖を鼈四郎は今宵はじめて憐《あわ》れに思った。没《な》くなった父の老僧は、もし子供が不如意を託《かこ》って「なぜ、こんな世の中に自分を生んだか」と、父を恨むような場合があったら、「こっちが頼みもしないのに、なぜ生れた。お互いさまだ。」といって聞かせと、母にいい置いたそうだが、今宵考えてみれば、亡父は考え抜いた末の言葉のようにも思える。子供にも彼自身に知られぬ意志がある。
お互いさまでわけが判らぬ中に、父は自分を遺《のこ》し、自分はこの子を遺している。父のそのいい置きを伝えた母は、また、その実家の罪滅しのためとて
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