は絹に向うと、われならなくに一層|肩肘《かたひじ》を張り、高飛車に出るのをどうしようもない。その心底を見透すもののようにまたそうでもないように、ふだん伏眼勝ちの煙れる瞳《ひとみ》をゆっくり上げて、この娘はまともに青年を瞠入《みい》るのであった。すると鼈四郎は段違いという感じがして身の卑しさに心が竦《すく》んだ。
 だが、鼈四郎は、蛍雪の相手をする傍ら、姉妹娘に料理法を教えることをいい付かり、お絹の手を取るようにして、仕方を授ける間柄になって来ると、鼈四郎は心易いものを覚えた。この娘も料理の業《わざ》は普通の娘同様、あどけなく手緩かった。それは着物の綻《ほころ》びから不用意に現している白い肌のように愛らしくもあった。彼は娘の間の抜けたところを悠々と味いながら叱《しか》りもし罵《ののし》りもできた。お絹はこういうときは負けていず、必ず遣《や》り返したが、この青年の持つ秀でた技倆《ぎりょう》には、何か関心を持って来たようだった。鼈四郎は調子づき、自己吹聴がてら彼の芸術論など喋《しゃべ》った。遠慮は除れた。しかしただそれだけのものであった。この娘こそ虫が好く虫が好くと思いながら、鼈四郎は、逸子
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