妹もそれについて呼び慣れてしまう。独占慾の強い蛍雪は、鼈四郎夫妻に住宅を与え僅《わずか》に食べられるだけの扶養を与えて他家への職仕を断らせた。
鼈四郎は、蛍雪館へ足を踏み入れ妹娘のお絹を一目見たときから「おやっ」と思った。これくらい自分とは縁の遠い世界に住む娘で、そしてまたこれくらい自分の好みに合う娘はなかった。いつも夢見ているあどけない恰好《かこう》をしていて、そしてかすかに皮肉な苦味を帯びている。青ものの走りが純粋|無垢《むく》でありながら、何か※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《も》ぎ取られた将来の生い立ちを不可解の中に蔵している一つの権威、それにも似た感じがあった。
お絹は人出入|稀《ま》れな家庭に入って来た青年の鼈四郎を珍しがりもせず、ときどきは傍にいても、忘れたかのように、うち捨てて置いたまま、ひとりで夢見たり、遊んだりした。母無くして権高な父の手だけで育ったためか、そのとき中性型で高貴性のある寂しさがにじんだ。鼈四郎が美貌《びぼう》であることは最初から頓着《とんちゃく》しないようだった。姉娘のお千代の方が顔を赭《あから》めたり戸惑う様子を見せた。
鼈四郎
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